最高の笑顔をくれるもの:坊垣香理

 「そうだなぁ。コロッケがいいなぁ。」私がご飯のおかずに迷った時に夫に聞くといつも同じ答えが返って来る。以前夫に「いっつも同じだけど、なんでなん。」と聞いたが、「う〜ん、なんとなく。」としか言わなかった。
 それからしばらくして夫の実家に行った時に義母から、「このお皿もらってくれる。うちではもう使わないから。」と両手で抱えるほどの大きなお皿を持ち出して来た。「こんなお皿を何に使ったんだろう。うちでは使わないと思うけど。」と首をひねっていると義母は、「あなたも子供3人で私も子供3人。子供3人が中学生、高校生くらいまで大きくなると、いくら作ってもすぐに食べられるから小皿に個別に盛るのが面倒なの。だからね、大きなお皿にど〜んと盛って楽してたの。今は子供らが家を出て行ったからこんなお皿をもう使うことはないけど、あなたはこれから使うようになるの。でもね、それだけのコロッケを作る時にはいつも3人に手伝わせていたの。メリケン粉を付ける人、次が卵を付ける人、次がパン粉をつける人と。本当にみんなが大騒ぎしながらコロッケをつくっていたの。材料をこぼして大掃除をしたり、上手にできなくてコロッケが破裂したりすることもあったけど、コロッケの日はみんながはちきれんばかりの笑顔があるから子供のためにずっと頑張れたと思うし、今日までこのお皿と取っていたんだと思うの。」と一気に話した。
 話している途中で義母は涙がぼろぼろではじめ、私も皿をもったままいつのまにかもらい泣きをしていた。夫の祖父は夫が高校生の時に他界し、夫の父は数年前に他界した。父の祖母も施設に入っている今当時の家族全員がもう揃うことはない。義母の話を聞きながら夫の小さい時の笑顔が目に浮かんだ。多分夫は記憶の奥底にみんなの笑顔を、楽しかった時のことを覚えているのだろう。だから今でも笑顔を手に入れたいがためにコロッケを欲しいのかもしれない。
 大皿を受け取ってから今日も大騒ぎをして笑顔を手に入れるためにコロッケをつくっている。確かに材料はこぼれるし、破裂もするが、義母の記憶以上の最高の笑顔を手に入れた。今一番困っていることは大皿が一枚しかないことだが、どうすればいいのだろう。

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